エフェメラの胎動

おまじない

 

 

星が綺麗な夜に泣いたことのない人間を、私は信じることなんてできない

なんて思われても良い なんとも思われたくない

何も言わないほうが美しいまま終わることなんて山ほどあるんです

でもわかっていてもいつも喋りすぎちゃうね

 


ひとりにいっこずつ命がくっついていて

そのいっこずつにたくさんの道がばら撒かれています

どっかのレールと交差したり

ぶつかられて道なんてない道に吹っ飛ばされたり

ちっちゃい石ころにつまづいただけで泣いちゃったり

大きな岩に潰されても立ち上がれちゃったり

 


苦しいことが正しいことでも、

笑顔を忘れないことが正しいことでもない

 


天国一歩踏み違えたら地獄、

でもそれって地獄の隣に天国がいるってこと?

一秒先の自分のご機嫌がわからない私たちにも

強くなりたい弱いままの私たちにも

 


きっと本当に全部が夢で

明日の朝、全てが灰色に成り代わっていたら

安心するのかな あなたはどう思うのかな

 


ほんとうに1番大事なことが上手く声に出せないんです

それが言葉の範囲を超えてしまうから

声にならないままいつも喉の奥につっかえて魚の骨みたいです

余計なことばかり口にしてしまうね

 


生きたいな、生きていけるかな

死にたいな、でも怖くて死にそうだな

幸せになりたいなんて無謀な願いごとをするくせに

幸せの匂いが少ししてくると途端に全部が怖くなる

辛くても嬉しくても同じくらい死んでしまいたくなるの

 

 

明夜のファンファーレ

 

夕暮れに見放されて

夜更けに見放されて

夜明けに襲われる

 

落ちる陽と共に街が無彩色になるなら

桃色の上着をあなたに贈ろう

 

少しずつ軋んでゆく夢と夢の境界が

いつか擦り切れて散らばったら

傷だらけの窓が割れて

きっとそこから夜空が見える

 

ぼくのための詩ときみのための譜

星がひとつ手元に降り落ちている

木々の木目が唸り声を上げている

少し冷たい風が海の表面を撫でる

 

五線譜に乗せた音符のように

ひとつひとつを異様な程に丁寧に

 

編み上げた髪が解けるように

散り散りになりゆく意識を掻き集めて

 

幾重に有る正しさの中から

ひとつずつを選んでいた

きみの寝息を守りたいと思った

 

 

 

 

駆引の延長線上にある水平の上に

君が翳した分度器が沈む

 

眼球がきちんと瞼に仕舞われているかわからなくなって

歯が抜ける夢を観て

立っているのに足が浮くような気がして

上と下と前と後ろが渦を巻いて

確かめる指先だけが鋭利

 

しなやかな背骨に歯を立てた

軋む小さな音が聞こえた時に

ひと匙分の血液が弾けていく

 

 

 

 

エヴァーエンドラストエイジ

 

君の残り香がここにあって

思い立った指先が空を切る

瞼の裏に反響する低い音が

静かな地響きに重なっては

ミルクみたいに溶けていく

甘い匂いがする夜更けの風

眼鏡の縁に当たる信号の光

が、紅く火照る頬を隠した

あと何回、あと何回ならば

僕を許してくれるのだろう

散り散りになった意識の先

チカチカと光る、星の行先

折れた襟を直す仕草だけが

何よりも正しい事に思えて

僕は目を瞑るしか無かった

 

潮彩オルゴール

 

 

 

振り返る

 

風の行先を追った

翻る爪先にワルツを浮かべて

オレンジ色の毒が湧く

 

くすねた花束を持って

小さなあたまが影に揺れた

 

飛び跳ねる

 

三つ編みの結いが解く

赤らむ頬を晒して

全てで毒を飲み干した

ぴりぴりと弾ける

 

鼓動が怖くて何故泣くのだ

わたしの音が耳を覆うのだ

 

陽に晒した掌の

赤が視界に溢れて溢れる

見たことない海の味がした

 

 

 

 

 

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(過去寄稿)

 

 

 

 

 

あなたから預かったままの夢の

続きが僕には開けない

あなたが知っている美しさを

僕は知らないままでいたい

 

今まで捨ててきた

全てのものが

この部屋の真ん中に居て

ずっと僕を見ている

 

 

 

今日を終えるために

電車の発車音で夜に向かう

濁り湿った風が

小さな窓から吹き込むので

僕は目を瞑った

昔弾いたことのあるアコーディオン

蛇腹が動く様を思い出した

そういう静かな夕暮れだった