エフェメラの胎動

おまじない

2016-01-01から1年間の記事一覧

ACT.2

コンピュータのルーターの無数の穴が窓のようにこちらを見ている ビルの影が上から下から、 君を冷やしていくのがまるで水のようで 空気とあわ立つ境目を はさみで梳く

B0.5

画面を少し斜めにして見る タッチパネルとその下にあるディスプレイ 狭間に想いを馳せてみる 真ん中にある 空間に眠ってみる

粉々

線路の上を飛び回る蝶の自由 横から眼に入る目玉のようなライトの照らす先 鱗粉

滲む

青と橙のコントラストに濃く色づく夕日と その上にひとつの飛行機雲が伸びる 目に焼きついた光の痕と 波打つ雲の額縁 雲の翳りに滲んだ日の色が 消えるその瞬間 一度強く空を照らして しぼんでいく 最後に残した色を 雲がまた滲ませる 夜が広がる 君は行った…

級友

幸せ 小さな校則違反 スカートを折る放課後 色つきリップ 磨いた爪 隠れて開けたピアス

乳白

白い短冊の傷口 腫れた軟骨の蓮の花

午後

すきなひとのなまえをぬれたまどにかいてきすをした

就寝

譲渡 手渡し 放棄 外にいる 無視 通り過ぎる 委託 囲まれている 懇願 存在の処分 本当は ママと喧嘩した夜は寒い

世間

チョコレートボンボン 早すぎた背伸び ロリポップの裏には 君の抜けた歯

飽和

牛乳にとろけていなくなりたい君はコップいっぱいの白さを飲み込む

伝言

「世の中には知らなくていいことと知ったほうがいいことがあるはずなんだけど、私が知って良かったと思うことは大抵が知らないほうが幸せになれたかもしれないことだったんだ」

蒸発

炎天下には足りなくて 冷夏というには何かが多くて 高く鳴るのは足音だけで 踏んだ跡には折れた花 水を 酸素を 血液を ピアス 流れ出るのは膿 曲がった小指

燦然たる

夜更けの波が音を打つ 群青の彼は唇を噛み千切って海になった

化学式

中身は腐っていた 夏は暑い 気温と日差しで溶けたのだろう 中身は腐っていた 夜の空気で目を洗う 爪は白かった 見えない君が 全部殺したいというから 僕は笑ってそうだねと答えた 君はあまりにも淡すぎた

残夏

閉じ込められた蠍のキーホルダーを持っている 小さな古着屋さんで買った 飴色のキーホルダー 私はそれを鞄につけて ゆらゆらと 自分が人間であることに憤怒し 後悔し それでも閉じ込められた蠍は いまこれから動き出すことはなく ただただ飴色に包まれて こ…

酸欠

ドラッグ 霧の通学路 切り裂く遅延電車とコール 黒髪を靡かせた少女は なんて幻想も甚だしく 傷んだ茶髪と校則違反のピアスが きみにとっては救いなのだと 向かいのホームのセーラー服の彼女に 嫉妬して 切なんで 諦めて 悲しんで 穴を埋めるようにスカート…

冷風

すべての器官に 入るもの入るものすべてすべて ただただ 君の笑顔は宇宙のように 宇宙のように残酷で ブラックホールのまんなかに 張り付いて ぼくがそのままいなくなってしまえればいいのにと バイト終わりの、コンビニ弁当は冷たくて 砂嵐のテレビ画面にだ…

海底

どこかの誰かの知らない青色がぼくの心臓を抉ってぼくの目を潰してぼくの鼓膜を破ってそんな醜い青を見せないでくれ海の底の深くの青

兆候

廊下にふんわりと佇む夏のにおい ヨーグルトみたいに冷たく はちみつみたいにとろりと 湿った空気 窓はもう閉めよう 虫が入ってきてしまう前に

灰砲

そんな世界に絶望している自分に絶望しているそんな自分を愛せているんだよ目も耳も口も自分のものでさえなにが正しいかわからなくて 放出言葉の不法投棄校庭に溜まった水たまりの残り私の原子は本当に存在してるのか冬の次は夏だ