エフェメラの胎動

おまじない

僕のこと忘れて欲しい病葉よ春雷を待つ新芽のために

 

悲しいと言えば簡単で聞こえの良いこの感情は、

決してその一言では済まない代物だ

脇道に寄せられた汚い雪が腐っていく

耳を澄ますと、その断末魔が静かに響き渡る

僕というものは四六時中冬を考えている

生クリームが乗せられたココアの

白と焦茶の境目がそっくり丁度よく

その雪の死骸に似ている

 

僕はその日学校へ行けなかった

 

この日のことをよく思い出す

降り積もる白い地層のきしきしとした重みで

この星が圧縮されていく気がした

傘が少しずつ重たくなっていって

木星のことを考えながら帰路についた

ココアを出してくれた駅前の小さな喫茶店

マスターのカラオケを聴きながら窓の外を見た

僕には友達がいなかった

 

狡休みを許されたかった、一度だけでよかった

僕のどうしようもない心に、そっと温かい

息を吹きかけて欲しかった

 

薄汚く濁った白い空から、同じ色の雪が降る

涙も流せなくて、ただ、味のしない涎だけが

僕の口の中を洗い流して、そして血の味が拡がる

少しずつ汚れていく氷が陽に溶けて泥になる

 

許されなかったから、嘘をついたんだ