エフェメラの胎動

おまじない

...(心拍)

 

夕暮れを眺めているとき会いたい人

僕の分しかケーキを買ってこない君

都会、余白のない都会

狭い空に慣れていく

血の流れの中を虫が這いずるように

加虐性のある約束を反芻している

言葉にすると稚拙な事柄はすべて

きっと正しく鎧を纏っているのだろう

真実はいつもお前だけに見えない字で

書かれていて、日暮がその手紙を燃す

知らない苗字をなぞったりしていた

ここに書きたかったいちばん大切なこと

忘れても、澱は溜まる

日々は罅となり僕の手に層をつくる

薄く、少しずつ

愛せないことを罪にしないでほしい

僕はいつも過去形で喋っていて

記憶の隅の音楽室から白鍵の音がする

どんな宝石よりも美しかった石ころ

鍵の壊れた宝箱に詰めた瓦落多

壊れかけの街灯が歌うように瞬いて

代わりにひとつ雨粒が頬に落ちてくる

美しく終わる物語のために

終わらないといけないもの

一歩進んで、二歩下がって

僕が触るもの全てが

赤い砂に崩れ落ちる夢を見ていた

君が今までに吐いた息は

どのくらいこの星を象っているのだろう