エフェメラの胎動

おまじない

シュガレット

ぼくが一遍の詩を書いても 君は読んではくれない 君はあたまがいいから 詩なんか読まない 瑞々しいつぼみや 雲のかたちや 甘い土のかおりにも 振り向いてはくれない ぼくがうたうとき ぼくだけが ぼくのいのちの承認者である ぼくが今夜ねむるとき 今朝のつ…

雑記

大事にしていた傷跡すらもうあまり見えていないのかもしれない それでも久し振りに眺めた星空には忘却の彼方に飛んで行っていた大切な心みたいなものをまた取り戻した感覚があったりなんかして 唐突に向かった海は生まれて初めて見たような気持ちになったり…

片道分の汽車の 車掌を睨む

Champs-Élysées

透き通るような白い肌を薄く桃色にして雨が強く降るのを待っていた 傘が蝙蝠のように翻る駅前で じぃとあなたに沿うように 赤いポストは雫に濡れていた するりとした石の通り 滑る靴が緊張させた 静かに拡がる水の溜まり 優しく叩きつける飛沫 黒いタクシー…

ナイトペトラ

貴方の好きだった夜は消えました 煌々とする電飾に脅かされています 平坦を 安寧を 冷えた指先の感覚で 触れられなかった 呼吸が線を繋ぐように 爪先が波を泳ぐように 落ちた花が開くように 洗われている 顔の横で話さないでくれ 眩しくて眩眩する どれだけ…

unencount

貴方の名前を知ることで 貴方を知った気になって居る 開かれた窓にカーテンが掛かる 届くようで 届かぬ歩幅 いっそ獣に 成ってみようか 覆い尽くす影と温度 貴方がその戸を拓く時 私はそれを知ってはいけない 虫の鳴く声 何処にいるのでしょう

淀色の皮

詰まった管に通す針 細いね 風は薄く音を立てる 呼気が映す白 溜まった紙袋 時間がとてもかかってしまったよ 当たったグラス同士は 片方が割れる 淀色の皮 待つ背中

ちび電球を煮詰めると ことこととおとがする

白樺、粘膜

眠る時の呼吸 彩を纏う鼓動 布を揺らす 鏡を打つ 冷えた鼻先 口先の余熱 意味を包む 甘い爪 張った線 地をなぞろう 灰を浮かべよう 暖まっていく電器 ぬるくなる 涎 衣を剥ぐ 呼吸に委ね 戸を披く

ゲロ

教授の講義 3回同じ話 トーストにバターを塗るときみたいに しゅわしゅわ溶けてしまいたい 公園のベンチはススキ色 ぼろぼろのおじさんが座ってる いつも 紙飛行機の折り方を忘れた いつも、ぐにゃんと変な円を描いて 一番最初に墜落した 折り方を忘れた い…

甘い匂いの背を追い ライターで溶かした袖を食む 誰も少し宙を見ている 駅員 助長する常套句

feat.譫妄

広告しか入っていない郵便受に迎えられながら帰宅した ただいまという声に震えた空気が死にかけの蝶みたいに揺れて過ぎる 電気のスイッチを付けたような気がした ぼう、と小さく唸る冷蔵庫 じい、と鳴り続ける 何が 外壁 まな板の傷痕 蠅の卵 口寂しくて爪を…

ウルメール・ミュンスターの花瓶より

彼女は泣いておりました 母が悲しいお話をするので いくつも夢をみましたが 幾千の星には届きませんでした 彼女は泣いておりました 雨にふやけてしまった本を暖炉に翳しながら 猫は振り向かず歩きます ひとりで居たいのです 彼女は泣いておりました ラブレタ…

shiawase

揺れる蛸 歓迎されなかった固有名詞は どこへ向かう 1.7メートル毎秒のぬるい風 隠れ場所の外階段は濡れて 待ち惚けの僕 引っかかって抜けた白い髪を 食んで もどってゆく細胞 あと15分 冴えてしまった深夜の意識を抱えている o beata solitudo , o sola bea…

2018 夏の終わりにて

沖にいる君を救命ボートにて迎えど珊瑚の墓標と出会う 冷えた朝 頭が下で足が上 先生、私は時計が読めぬ 壁際に張り付く小さな意識にて 昨日の晩は何をしていた 変わり目は少し具合が良くなくて全体的に白っぽいから

透明で 青い 反射する かみさま

羽虫と群舞

電車とホームのあの隙間に 吸い込まれるように落ちる脚を 終電は人が多いから いつも少し前に乗る 乗りはぐってみたい 甘い匂いの裏道を 踊る ネオン 綺麗 虫がいなくなった 綺麗だ

ピーキー・ドッグ

進め、夏! 破滅 帰れよ もうどうでもいいだろベランダが西日を浴びて人工芝が青々と茂る 積まれた本の塔に頭を突っ込んで「明日世界が終わります!」壁の薄い賃貸だからでかい声 出せない そうだ俺は確かここで彼奴と殴り合いをした 嘘だよ 悠長な事言って…

名前すら知らない雑草のような花

あの時、私は確かに暴発した 本を投げて 叫び ドアをこじ開けて 逃げ出した 終電がまだあった 遠くまで行ってしまえばよかった 所詮の数十メートル 疲れて座り込んだ ドアにぶつけた膝が青い 痛い なにをしてるんだろう 何がしたいんだろう どうにもなるわけ…

ネロリ

死ぬほど泣いた日は思い出せるのに 死ぬほど笑った日が思い出せない 正しい脈拍を探している まっさら綺麗に白い手首に 左手を寄せても 聞えるのは風の音だけ 滑っていくほど美しかった 貴方の腹部 木目みたいに通る静脈に 針を刺したらどれだけ 綺麗に流れ…

涼しいのがお好き

冷蔵庫の二段目 首を折り曲げて 頭を突っ込んだ 動かない貴女を 途切れた記憶で 明日もちょっと 待っている僕が 居たりなどする

牛乳屋さん

「なくしたものって、どこに行ってるんだろう」 目の前を茶色い猫が通り過ぎる 指紋のついた眼鏡 煩わしいのは視界だけではなかった 「眼鏡に雨がつかないようにしてほしい」 すっかり曇った空はまっしろに牛乳みたいにぺかぺかしていたけど、明日も明後日も…

白い紫陽花が部屋に咲いた

すきま風 薄ら白い昼間の雲と煙が溶ける 融解、誘拐、幽界の断片 白いつば付き帽子の影をするりと抜ける 透ける 破れた毛布の中身をぐちゃぐちゃに 騒ぎ喚いても

hole all

パッパラパ 西瓜があまりにも軽々しいので割ってみるとそこは空洞でした 無い身 椎の木 待てば思惟 朱色 底に残った虫と種子 残念だ

踏み荒らした花を母が綺麗ねと言って落ちる午下りの夏

絶え間ない他殺 絶え間ない他殺 痰を吐き切って 刮げ落ちた頬に手を寄せる 破壊された花壇 破壊された花壇 真空パック 躑躅に口を 蟻 、蟻 、蟻 這わす陶器の皮膚 花壇は焼かれ焦げた 煤を掻き集めて 白い君の喉へ

また、夏が来るよ

どうでもよかったはずの夕暮れ 笑って手を振る 何故、と言えなかった 焼け落ちた空には海が近い 忘れるはずだった 忘れたかった 遥か彼方まで遠く続く白い雲に もう覚えていない記憶を呼び起こして 写真には残っていない 青い制服のベルトを折り上げている …

水族館の帰り道

ダイビング 部屋のランプを青色にして 鮫の縫い包みを枕に 破けた布団の羽毛を吸い込んで 溺没 水の音が段々血の音に聞えてくる 絶え間ない煽情 何処にいるかわからなくなってくるから 肌に爪を立てていた 違うことにした 見ないことにした 派手な電飾の繁華…

アマチュア無線部

爪の裏側は甘いのだなと思った 媒体を通して通信する僕たちの電波 伝播 広がる詩体 転がる肢体 夏は檸檬の紡錘形 にやりと笑う君を横目に 僕は一杯の紅茶を飲み切れず流す 砂糖 解毒 回転する十字路

sorrysosorry

今日は久しぶりに月が見えたよ そういえば、いま月が見える時間、外にいないことが多いな 自分で忙しくするのは癖だけど、 何かに忙しくされるのは嫌だな 部屋がまた、汚くなった ゆっくり片付ける時間がないな 時間がないな 私もみんなも せかせかしてると…

7分30秒と沈黙 (傘と包帯 第4集)

https://note.mu/kasatohoutai/m/ma634d9704f40 寄稿 主催 早乙女まぶた 様