「なくしたものって、どこに行ってるんだろう」
目の前を茶色い猫が通り過ぎる
指紋のついた眼鏡
煩わしいのは視界だけではなかった
「眼鏡に雨がつかないようにしてほしい」
すっかり曇った空はまっしろに牛乳みたいにぺかぺかしていたけど、明日も明後日も天気は悪いみたいで
夏だというのに長袖ばかり着ている
太陽が、怖い
「白い服が好きなんだ でもすぐ汚れる 良いものは白が買えない あんなに綺麗なのに」
電車の窓から空を眺めると、たくさんのビルの谷間から大きな羽が生える
うさぎが泳ぐ
街に切り取られた背景が牛乳瓶みたいに
しゅるしゅると 自分が小さく小さくなるような気がした
部屋に飾った、水の入った硝子を思い出した
目がちかちかする
自転車の前かごに棺桶を詰め込んで、今日は歌って帰ろうと思う