エフェメラの胎動

おまじない

牛乳屋さん

 

 

「なくしたものって、どこに行ってるんだろう」

 

目の前を茶色い猫が通り過ぎる

指紋のついた眼鏡

煩わしいのは視界だけではなかった

 

「眼鏡に雨がつかないようにしてほしい」

 

すっかり曇った空はまっしろに牛乳みたいにぺかぺかしていたけど、明日も明後日も天気は悪いみたいで 

夏だというのに長袖ばかり着ている

太陽が、怖い

 

「白い服が好きなんだ でもすぐ汚れる 良いものは白が買えない あんなに綺麗なのに」

 

電車の窓から空を眺めると、たくさんのビルの谷間から大きな羽が生える

うさぎが泳ぐ 

街に切り取られた背景が牛乳瓶みたいに

しゅるしゅると 自分が小さく小さくなるような気がした

 

部屋に飾った、水の入った硝子を思い出した

目がちかちかする 

自転車の前かごに棺桶を詰め込んで、今日は歌って帰ろうと思う

 

 

 

踏み荒らした花を母が綺麗ねと言って落ちる午下りの夏

 

 

 

絶え間ない他殺

絶え間ない他殺


痰を吐き切って

刮げ落ちた頬に手を寄せる


破壊された花壇

破壊された花壇

 


真空パック

 


躑躅に口を

蟻 、蟻 、蟻 

這わす陶器の皮膚

 

花壇は焼かれ焦げた

煤を掻き集めて 

白い君の喉へ

 

 

また、夏が来るよ

 

 

 

どうでもよかったはずの夕暮れ

笑って手を振る

何故、と言えなかった 

焼け落ちた空には海が近い

忘れるはずだった 忘れたかった

遥か彼方まで遠く続く白い雲に

もう覚えていない記憶を呼び起こして

写真には残っていない

青い制服のベルトを折り上げている

忘れたかった 忘れていなかった

安いアイス 

溶ける体温

 

どうでもよかった夕暮れ

青と橙だけがずっと 

瞼に焼き付いている

 

 

 

 

水族館の帰り道

 

 

ダイビング

部屋のランプを青色にして

鮫の縫い包みを枕に

破けた布団の羽毛を吸い込んで

溺没

 

水の音が段々血の音に聞えてくる

絶え間ない煽情

 

何処にいるかわからなくなってくるから

肌に爪を立てていた

違うことにした

見ないことにした

 

派手な電飾の繁華街

エンゼルフィッシュの真似をして

群衆の間を

(海藻)

 

何処にも行きたくないな

(回送)

 

 

 

アマチュア無線部

 

 

爪の裏側は甘いのだなと思った

 

媒体を通して通信する僕たちの電波

伝播

広がる詩体

転がる肢体

 

夏は檸檬の紡錘形

 

にやりと笑う君を横目に

僕は一杯の紅茶を飲み切れず流す

砂糖

解毒

回転する十字路