エフェメラの胎動

おまじない

10畳の水槽 魚

 

 

 夜なんて簡単に酔える

大きな黒い幕を吸い込んで すこしの氷を齧ればいい

簡単だ 午前一時は簡単な悲しみだ

毎晩を吸い込んで 身体に回る黒を舐めつければいい 苦いのは自分のこと

古くなったラジオ 下手くそな異国語を瞳の後ろ側に通している 

 

 

 

 

 

気がつくとそこは庭だった

 

 

帰り道、途端に歩けなくなることがあるのです 自動販売機の薄汚れた電気を浴びた蛾がじいとしています 蛾は蝶であり 蝶は蛾ではないのです 火花の音を思い出します 曇った夜には意味のない行為ではありますがふうと息を吐く 途端に歩けなくなることがあります コンクリートは蠢くだけなのです

肌の先1ミリメートルを泳ぐ薄ら温いものは空気でも夜でもなく

ただのわたくしの 汚さなのだ

 

 

 

 

メンソレータム

 

 

 

買った本を読まなかった日があった

 

ママのご飯を食べなかった日があった

 

虫刺されをそのままにした日

ペットボトルを開け放しにした日

充電の切れた端末を

カーテンを

洗濯を

 

過ぎていくだけ

遊園地の帰り道に見た高速道路 電灯の残影

乾いた口で 指をなぞる

 

 

 

 

カーテンを洗うことはなかなかに

 

 

 

ここから2年と4ヶ月16日 プラス1時間

 

1秒 2秒 3秒

 

ここにいる僕は6秒間 

そしてその後の合計される10秒間

 

レントゲンとスコープ レンズの透過性を問う

 

懐中電灯 屈折の伸縮性を問う

 

確かめる 正面 

 

十二分であることはいつでも真後ろ

白いレースのカーテンのべたつきを撫でる