一軒の空き家 詰め替えのシャンプー
汗をかくコンクリート 叩く足音
明日は多分晴れるから よく眠っていい
7月の熱が 目の黒いとこに移り込むから
「もう忘れたよ」
だからさあ、爪を塗ろう 何かを埋めるよう
気づかなくていい それは美しい
だからさあ、水を替えよう 明日は晴れだ
雨の降る薄暗い日は、蛍光緑の傘が必要だ
快速電車 曇るガラスを撫で付ける
網膜、少し離れて窓
迷子のないように
薄暗く光る部屋の
布団の隅にチラリと見える
爪の先のあの反射する一ミリ
ペット禁止 猫の声
ああ猫がないてる
旧友 いかがおすごしか
僕はもう 君の顔が思い出せない
食事を済ませた
家から歩いて17分の ギフトショップに行った
ひとつ蝋燭と メッセージカードを買った
机の上に広げて
ペンを持ってみる
驚くほどなにも書くことがない
わかっていた
それをわかってはいた僕はわかっていましたよというつもりのシーリングをカードの真ん中に垂らしている
さてだれへのつもりのカードだっただろうか
僕はそのカードを蝋燭の芯の少し後ろにざっくりと差し込んだ
今日 食事を済ませて 家を出て 17分を歩いて 蝋燭とカードを買って ペンを持って ペンを置いて カードに蝋のような赤い丸を垂らして それを蝋にざっくりと差し込んで そしていまのこと
何億年も前から決まっていたの
何億年も前から そうであったの
透明の中に青が入り込むように
睫毛の隙間に冷えた雨のにおいがうつるように
曇硝子に爪で書いた 意味のないおまじないと 汗ばむ首をかんがえて
知らないを埋める駅の雑踏に 揺り籠
白と黒が いちばんの鮮やかです
たまに、極々たまに、この人はいつかの昔にわたくしと同じ個体、あるいは同じ個体の一部、別々の部分でもよいのですが、そういった「同じ」を共有していたものではないのかなと そう思うときがあります そういうときは この人の目ん玉、耳、手の先人差し指の爪の白いとこ、みたこともないそんなとこを 想像して それらが触れるもの、空気、ペン先、睫毛 そんなようなものを考えます わたくしは個体です しかしそうしてきっとたくさんのなにかが集まって、ドロっとして くっついて ギュウっとなったもののことなような思いもします バスの中で 四角くなった昼過ぎの空を見ているときと同じ思いです 空は一枚でしょうか そんなような気もするけど、そうでないような気もするのです 不味いとわかりながら吸ってしまうあなたの煙草のケムリが、流れて、雲の色とギュウっとなることも、また似ているようなそんなかんじなのです 煙草 煙草なんて書いてしまうとすっかり薄まってしまうような気がしますが、そこはあまり考えなくてよいのかな タイトルが未定です 決まる頃にはなにかもうひとつ