エフェメラの胎動

おまじない

名前すら知らない雑草のような花

 

 

あの時、私は確かに暴発した

 


本を投げて

叫び

ドアをこじ開けて

逃げ出した

 


終電がまだあった

遠くまで行ってしまえばよかった

 


所詮の数十メートル

 


疲れて座り込んだ

ドアにぶつけた膝が青い

 


痛い

 


なにをしてるんだろう

何がしたいんだろう

 


どうにもなるわけがなかった

 

ガラスのテーブルを割るくらいしたらよかった

 

でも、怪我はしたくなかった

 


まだ浅い夜だった

 


水道管を流れる水の音が

煩い

 

 

帰りたくなかった

帰るしかなかった

所詮の数十メートル

 

 

 

どこにも行けなかった