エフェメラの胎動

おまじない

灰青の空僕が燃す煤煙

僕の心は僕から見える少し遠い場所にあるそこまで歩いて、捲り上げて中を覗いてみるゆっくり、ひとつずつ拾い上げてこれじゃない、それでもないとひとつずつ元の場所に戻していく形のないもの 色のないもの見えないもの 光らないものたくさんの塊がそこかし…

思い出はなるべく消しておくのが良い 振り返ることが出来ないというのは 時に自分を救うから

ブリリアント・ブラー

一体どんな御伽話を書き上げたとしても 書いた人物を知る人が読めばそれはもう 万全のフィクションではなくなってしまう そんな恐ろしいことが赦されている 一体いくつの無駄な段落が葬られてきただろう 僕の言葉は僕の願いではない 僕はいつも嘘の話をして…

洞不全

譫言が如く滑り落ちるあかさたな 話したことを何も覚えていない朝 全部欲しいけど、全部を欲しがるくらいなら 何一つ必要ないのだ 君の皮のにおい 水脹れ 蚯蚓腫れ 巻爪 汚い夢を見て、初めて、 窓の外を美しいと思う 大切な話をしたいなら 部屋の明かりを消…

Lament , Filament , Bewitchment .

憂鬱な振りをしていつも怒っている 白い吐息と一緒に魂の繊維も吐き出せたら良い 青く煤けた身体の真ん中の辺りが時折萎む 此処にはいつも何も無い 破けた切手の端の色が褪せていって 用無しのレターセットの底で僕を呼んでいる 寄せて返る波が無くて返す言…

晩夏回想

夏空に向けて蝉の羽掲げれば 透き通る雲に窓辺が視える 鉄板の如き地面に垂れ落ちる 自意識割れて火花が落ちて 束の間の涼しげ 余った素麺の破片が出てくる彼岸のキッチン 進め夏、破滅を瞼に貼り付けて 犬死を待つような寝姿 白波を泳ぐ鴎の群衆よ 戻りゆく…

心音を拍数にしてBPM125の死亡宣告

...(心拍)

夕暮れを眺めているとき会いたい人 僕の分しかケーキを買ってこない君 都会、余白のない都会 狭い空に慣れていく 血の流れの中を虫が這いずるように 加虐性のある約束を反芻している 言葉にすると稚拙な事柄はすべて きっと正しく鎧を纏っているのだろう 真…

僕のこと忘れて欲しい病葉よ春雷を待つ新芽のために

悲しいと言えば簡単で聞こえの良いこの感情は、 決してその一言では済まない代物だ 脇道に寄せられた汚い雪が腐っていく 耳を澄ますと、その断末魔が静かに響き渡る 僕というものは四六時中冬を考えている 生クリームが乗せられたココアの 白と焦茶の境目が…

tumbling,ing

足の底から冷えていく 虫の死に際の羽音が 火花のように季節を終わらせる 朝と夜に凭れ続けて 真昼を知らなくなっていく 氷の入った水を飲み干していくとき 透き通った管が身体を巡ることを知る 小さな氷塊が溶け出していて 朝焼けの湖の水面の煌めきを まる…

ハインリヒ・ハイネ・クライネ

日々が過ぎゆくことを風と称して 時が過ぎゆくことを川と称した 痛みを抱えて日々は輝くと宣った 艶とした綺麗な肌に傷がない 愚か者よ、愚か者が 幼子の歩く音 微睡を啄む鳥の声 全てに堪えかねている 手入れされない庭の重さ 全てに堪えかねていて 愚か者…

シーラカンス午後0時

死んだ虫が美しいのは 形だけがそこにあるから 蠢く手脚にはいやというほど命がある 春一番に晒された君の髪が 卑しく解けて宙を舞う つるりとした心臓 蛹のまま、溶けて消えてを繰り返して そこにいた筈のちいさなほとぼりが ゆっくり消えてしまうまでを ぼ…

2023年晩春

殺し屋のような目付きで歌うその瞼に ひとつ、星を乗っける じゃんけんをしよう私が負けるまで 負けたら全部君にあげるよ 今はもう昔の話 特別な生命を刺して殺した夜明け 石ころを蹴飛ばす笑顔の温さにも 厭な気配がある通学路 大好きなあなたに会いに行き…

短歌劣箋

2016/01/10 03:58 悲しいと泣く君のとなりで今日もかわいいだけのパンダの笑顔2016/01/10 04:04 バイバイとさよなら 渡した封筒ときみとの糸を 解く電車と 2016/01/24 03:54 新しく買った手帳に書きかけた記念日 あの日の私を褒める 2016/01/24 04:20 夜更か…

孤児の子守唄は

日常というのは奇跡の連続なのだということを改めて知ることになる 星が綺麗だと君に言えなかった今日の夜に 別れを告げることすら出来ずに 蕩けた夢へ迷い込む 異常なほど暖かくて気持ちが悪くて そういう温度を覚えてしまっていて いつの日か 可哀想になっ…

星が綺麗な夜に泣いたことのない人間を、私は信じることなんてできない なんて思われても良い なんとも思われたくない 何も言わないほうが美しいまま終わることなんて山ほどあるんです でもわかっていてもいつも喋りすぎちゃうね ひとりにいっこずつ命がくっ…

明夜のファンファーレ

夕暮れに見放されて 夜更けに見放されて 夜明けに襲われる 落ちる陽と共に街が無彩色になるなら 桃色の上着をあなたに贈ろう 少しずつ軋んでゆく夢と夢の境界が いつか擦り切れて散らばったら 傷だらけの窓が割れて きっとそこから夜空が見える ぼくのための…

駆引の延長線上にある水平の上に 君が翳した分度器が沈む 眼球がきちんと瞼に仕舞われているかわからなくなって 歯が抜ける夢を観て 立っているのに足が浮くような気がして 上と下と前と後ろが渦を巻いて 確かめる指先だけが鋭利 しなやかな背骨に歯を立てた…

エヴァーエンドラストエイジ

君の残り香がここにあって 思い立った指先が空を切る 瞼の裏に反響する低い音が 静かな地響きに重なっては ミルクみたいに溶けていく 甘い匂いがする夜更けの風 眼鏡の縁に当たる信号の光 が、紅く火照る頬を隠した あと何回、あと何回ならば 僕を許してくれ…

潮彩オルゴール

振り返る 風の行先を追った 翻る爪先にワルツを浮かべて オレンジ色の毒が湧く くすねた花束を持って 小さなあたまが影に揺れた 飛び跳ねる 三つ編みの結いが解く 赤らむ頬を晒して 全てで毒を飲み干した ぴりぴりと弾ける 鼓動が怖くて何故泣くのだ わたし…

あなたから預かったままの夢の 続きが僕には開けない あなたが知っている美しさを 僕は知らないままでいたい 今まで捨ててきた 全てのものが この部屋の真ん中に居て ずっと僕を見ている

今日を終えるために 電車の発車音で夜に向かう 濁り湿った風が 小さな窓から吹き込むので 僕は目を瞑った 昔弾いたことのあるアコーディオンの 蛇腹が動く様を思い出した そういう静かな夕暮れだった

こつりと音がして 抱えていたすべての星が腕からこぼれ落ちた 惑う視線に晒されて 諦めた顔をする君が綺麗だった 覚束なさを噛み砕いて 歯に滲みていく温度だけが 温度だけが、鼓動の証明でした

落とした愛を拾いに行って、 滑り落ちた君の影を踏みつけた この椅子がどう壊れようと、 僕には心底関係の無いことで 熟れた桃の実が汁を垂らすほど、 長い時間を掛けて 長い時間を掛けても、 この花壇に芽は産まれない ぼろぼろになった本の端の、 埃の匂い…

落ちる夕陽を眺めて口を閉ざした たまに思い出して欲しかった 濁った水溜りに靴を湿らせて 安堵する自分が馬鹿みたいで 私の眼と同じ色をしているそれが 指の腹にさらりと泥を塗る 水槽の金魚でさえ 僕よりも自由にみえた ここはあまりにも狭すぎる ここはあ…

傘と包帯 第九集

https://note.com/kasatohoutai/m/m6b702f21e329 寄稿しました。

フライデイ・ナイト・フィーバー

街の灯りが燻り 静かな轟音の響く高速道路 雨が降ることさえ心は躍る ひとりになりたい助手席で ひとりとひとりの逃亡劇 否応無く回る世界に この星よりも速く速く 逆らっても叱られぬ夜更け 何処へ向かうか見知らぬ場所へ 向い風すら巻き上げて (街の灯は風…

黙祷するプルメリア・ブルー

無い夢の話をしよう 伸びた髪を潜る指の 描く円がほどけていく 昨日潰れた喫茶店には 沢山の記憶が住んでいたね ちょっとしたことでいいんだ プルメリアの花飾りの 不自然な青色が眩しくて 明日の空を見たいなんて思ったから

étude

教卓まがいのカウンターで 木目の眼をなぞる蟻を殺した朝 ピアノの影から音楽家達の産声が湧き上がる 呪いのように捨てられないポラロイドが カードケースの中で躍る音が聴こえる時 一輪挿しの薔薇は枯れて 孤独者の喉は乾くだろう

閉じた本の栞が飛び出す夜は機嫌が悪い 折り畳まれたハンカチには染みが付いていた 折れた秒針に合わせて息をする 朝靄をゆっくり溶かす 窓の結露を拭くけれど 汚れた瞼がうまく開かないのだ 半紙が濡れて蕩けるように 明日の新郎のネクタイのように コーヒ…