エフェメラの胎動

おまじない

ウルメール・ミュンスターの花瓶より

 

 

 

彼女は泣いておりました

 

母が悲しいお話をするので

 

いくつも夢をみましたが

 

幾千の星には届きませんでした

 

 

 

彼女は泣いておりました

 

雨にふやけてしまった本を暖炉に翳しながら

 

猫は振り向かず歩きます

 

ひとりで居たいのです

 

 

 

彼女は泣いておりました

 

ラブレターを書きました

 

何処か遠く美しい場所

 

知らない誰かを愛するために

 

 

 

彼女は星になりました

 

月にいる彼の愛しい花を

 

一目見るために

 

 

shiawase

 

 

揺れる蛸

 

 

歓迎されなかった固有名詞は

どこへ向かう

 

1.7メートル毎秒のぬるい風

 

隠れ場所の外階段は濡れて

待ち惚けの僕

 

引っかかって抜けた白い髪を

食んで

もどってゆく細胞

 

 

あと15分

 

冴えてしまった深夜の意識を抱えている

 

 

o beata solitudo , o sola beatitudo

 

 

戻らないと 伝えておいてほしい

 

 

 

羽虫と群舞

 

電車とホームのあの隙間に

吸い込まれるように落ちる脚を

 


終電は人が多いから

いつも少し前に乗る


乗りはぐってみたい


甘い匂いの裏道を

踊る


ネオン

綺麗

 


虫がいなくなった

 


綺麗だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーキー・ドッグ

 

 

 

進め、夏! 破滅

帰れよ もうどうでもいいだろ
ベランダが西日を浴びて
人工芝が青々と茂る

積まれた本の塔に頭を突っ込んで
「明日世界が終わります!」
壁の薄い賃貸だから
でかい声 出せない

そうだ俺は確かここで
彼奴と殴り合いをした

嘘だよ

悠長な事言ってるから
またプラゴミの日

扇風機 壊れそうだから
ぶん殴った
壊せなかった
粗大ゴミの日が
再来週だったから

 

 

 

 

https://note.mu/kasatohoutai/n/n5beba7083ea5

 

名前すら知らない雑草のような花

 

 

あの時、私は確かに暴発した

 


本を投げて

叫び

ドアをこじ開けて

逃げ出した

 


終電がまだあった

遠くまで行ってしまえばよかった

 


所詮の数十メートル

 


疲れて座り込んだ

ドアにぶつけた膝が青い

 


痛い

 


なにをしてるんだろう

何がしたいんだろう

 


どうにもなるわけがなかった

 

ガラスのテーブルを割るくらいしたらよかった

 

でも、怪我はしたくなかった

 


まだ浅い夜だった

 


水道管を流れる水の音が

煩い

 

 

帰りたくなかった

帰るしかなかった

所詮の数十メートル

 

 

 

どこにも行けなかった