エフェメラの胎動

おまじない

10畳の水槽 魚

 

 

 夜なんて簡単に酔える

大きな黒い幕を吸い込んで すこしの氷を齧ればいい

簡単だ 午前一時は簡単な悲しみだ

毎晩を吸い込んで 身体に回る黒を舐めつければいい 苦いのは自分のこと

古くなったラジオ 下手くそな異国語を瞳の後ろ側に通している 

 

 

 

 

 

気がつくとそこは庭だった

 

 

帰り道、途端に歩けなくなることがあるのです 自動販売機の薄汚れた電気を浴びた蛾がじいとしています 蛾は蝶であり 蝶は蛾ではないのです 火花の音を思い出します 曇った夜には意味のない行為ではありますがふうと息を吐く 途端に歩けなくなることがあります コンクリートは蠢くだけなのです

肌の先1ミリメートルを泳ぐ薄ら温いものは空気でも夜でもなく

ただのわたくしの 汚さなのだ

 

 

 

 

飲み込まれているとして君は猛獣のつもり

 

 

 

楽しそうな顔で歩く

嬉しそうな声で笑う

愉快や愉快 馬鹿みたい

嫌いな嫌いを睨みつけ 食い下がる蛇

棚に上げて泣く

後ろ手に絶望して

終わりのついでに始めている

死ぬついで 死なないで

愉快や愉快 不快です

 

 

メンソレータム

 

 

 

買った本を読まなかった日があった

 

ママのご飯を食べなかった日があった

 

虫刺されをそのままにした日

ペットボトルを開け放しにした日

充電の切れた端末を

カーテンを

洗濯を

 

過ぎていくだけ

遊園地の帰り道に見た高速道路 電灯の残影

乾いた口で 指をなぞる