エフェメラの胎動

おまじない

ブリリアント・ブラー

 

一体どんな御伽話を書き上げたとしても

書いた人物を知る人が読めばそれはもう

万全のフィクションではなくなってしまう

そんな恐ろしいことが赦されている

一体いくつの無駄な段落が葬られてきただろう

僕の言葉は僕の願いではない

僕はいつも嘘の話をしている

純正の与太話、負け損いの書物

腫れ上った指の青い方の糸を

読みかけの栞にするから抜いて欲しい

先が綻びた弱い紐を整える仕草にしか

発現しない祈りがあると思っていた

傷のついた書物の表紙を撫でていて

たまにこちらを見遣る僕がいる

紙に文字を書くと本になるんだ

お前は知らないだろうけど

 

洞不全

 

譫言が如く滑り落ちるあかさたな

話したことを何も覚えていない朝

 

全部欲しいけど、全部を欲しがるくらいなら

何一つ必要ないのだ 君の皮のにおい

 

水脹れ

蚯蚓腫れ

巻爪

 

汚い夢を見て、初めて、

窓の外を美しいと思う

 

大切な話をしたいなら

部屋の明かりを消して

すべての音を止めて

ぼくをひとりにして

 

 

Lament , Filament , Bewitchment .

 

憂鬱な振りをしていつも怒っている

白い吐息と一緒に魂の繊維も吐き出せたら良い

青く煤けた身体の真ん中の辺りが時折萎む

此処にはいつも何も無い

破けた切手の端の色が褪せていって

用無しのレターセットの底で僕を呼んでいる

寄せて返る波が無くて返す言葉も無い

思い出せないアルバムの所在を知らないまま

群れから逸れた一枚の写真の所在が無い

先日の強風で折れた花を助けたい

後向きに列車に乗ると落下しているみたい

終わったのに何も始まっていない

天国に居たら地獄のこと愛せない

 

晩夏回想

 

夏空に向けて蝉の羽掲げれば

透き通る雲に窓辺が視える

 

鉄板の如き地面に垂れ落ちる

自意識割れて火花が落ちて

 

束の間の涼しげ

余った素麺の破片が出てくる彼岸のキッチン

 

進め夏、破滅を瞼に貼り付けて

犬死を待つような寝姿

 

白波を泳ぐ鴎の群衆よ

戻りゆく波は何処かの岸へ

 

過ぎ去った暦を捲る白い手の晩夏回想

二度と会わない

 

 

 

 

...(心拍)

 

夕暮れを眺めているとき会いたい人

僕の分しかケーキを買ってこない君

都会、余白のない都会

狭い空に慣れていく

血の流れの中を虫が這いずるように

加虐性のある約束を反芻している

言葉にすると稚拙な事柄はすべて

きっと正しく鎧を纏っているのだろう

真実はいつもお前だけに見えない字で

書かれていて、日暮がその手紙を燃す

知らない苗字をなぞったりしていた

ここに書きたかったいちばん大切なこと

忘れても、澱は溜まる

日々は罅となり僕の手に層をつくる

薄く、少しずつ

愛せないことを罪にしないでほしい

僕はいつも過去形で喋っていて

記憶の隅の音楽室から白鍵の音がする

どんな宝石よりも美しかった石ころ

鍵の壊れた宝箱に詰めた瓦落多

壊れかけの街灯が歌うように瞬いて

代わりにひとつ雨粒が頬に落ちてくる

美しく終わる物語のために

終わらないといけないもの

一歩進んで、二歩下がって

僕が触るもの全てが

赤い砂に崩れ落ちる夢を見ていた

君が今までに吐いた息は

どのくらいこの星を象っているのだろう