寝てないよ涅槃だよ

おまじない

名前すら知らない雑草のような花

 

 

あの時、私は確かに暴発した

 


本を投げて

叫び

ドアをこじ開けて

逃げ出した

 


終電がまだあった

遠くまで行ってしまえばよかった

 


所詮の数十メートル

 


疲れて座り込んだ

ドアにぶつけた膝が青い

 


痛い

 


なにをしてるんだろう

何がしたいんだろう

 


どうにもなるわけがなかった

 

ガラスのテーブルを割るくらいしたらよかった

 

でも、怪我はしたくなかった

 


まだ浅い夜だった

 


水道管を流れる水の音が

煩い

 

 

帰りたくなかった

帰るしかなかった

所詮の数十メートル

 

 

 

どこにも行けなかった

 

 

 

吊り広告に火花が飛ぶ

 

 

 

進め夏!破滅 

山手線を二周していたあの人は黄色い点線の内側に入れなくて

どこかへ行った 

駅の公衆電話をガチャガチャガチャガチャガチャ

大事なことはいつも一番小さい字でおまえに見えないように書かれている

傘にヤニ

べったりとした悪意を噛み捨てのガムと水槽にぶち込んだ

今は夏だそうだ

どうせ選ばれないから履歴書は破いて喫茶店に逃げ込んだ

弱虫より弱い虫

おまえの番だよ

 

 

 

ネロリ

 

 

死ぬほど泣いた日は思い出せるのに

 

死ぬほど笑った日が思い出せない

 

 

正しい脈拍を探している

 

まっさら綺麗に白い手首に

左手を寄せても

聞えるのは風の音だけ

 

滑っていくほど美しかった

貴方の腹部

 

木目みたいに通る静脈に

針を刺したらどれだけ

綺麗に流れるだろうと思った

唾液でさえ

 

 

刃物を持っていない

爪を見る

突き立てる

貴方の赤色が見たくて

牛乳を毎日飲んだよ

 

風が吹いている

網膜が割れる

風が吹いている

 

 

 

牛乳屋さん

 

 

「なくしたものって、どこに行ってるんだろう」

 

目の前を茶色い猫が通り過ぎる

指紋のついた眼鏡

煩わしいのは視界だけではなかった

 

「眼鏡に雨がつかないようにしてほしい」

 

すっかり曇った空はまっしろに牛乳みたいにぺかぺかしていたけど、明日も明後日も天気は悪いみたいで 

夏だというのに長袖ばかり着ている

太陽が、怖い

 

「白い服が好きなんだ でもすぐ汚れる 良いものは白が買えない あんなに綺麗なのに」

 

電車の窓から空を眺めると、たくさんのビルの谷間から大きな羽が生える

うさぎが泳ぐ 

街に切り取られた背景が牛乳瓶みたいに

しゅるしゅると 自分が小さく小さくなるような気がした

 

部屋に飾った、水の入った硝子を思い出した

目がちかちかする 

自転車の前かごに棺桶を詰め込んで、今日は歌って帰ろうと思う

 

 

 

白い紫陽花が部屋に咲いた

 

 

すきま風

薄ら白い昼間の雲と煙が溶ける

融解、誘拐、幽界の断片

白いつば付き帽子の影をするりと抜ける

透ける

破れた毛布の中身をぐちゃぐちゃに

騒ぎ喚いても